オンラインショップのBASEで、音源の販売を開始しました。
支払い方法もいくつか選択肢があるみたいなので、気になった方はどうぞ覗いてみてください。
こちらからの発送はレターパックになります。
先日発売の4thアルバムはもちろん、2nd,3rdアルバムも取り扱っています。
海を見た日
2月のとある平日の休日に、ふと思い立って海を見に行った。
本当は故郷の海が懐かしくなったのだったが、唐突に出かけるには遠すぎる。
電車で2時間ほど行けばたどり着ける海に行ってみることにした。
今の場所に住んでもう20年以上になるというのに、こうやって「そうだ、海を見に行こう」といって、近郊へ出かけたのは初めてだった。
田舎へ行くよりは全然近いけど、まったく無縁の土地となると、なんだか遠くに感じる。
目的地の駅で電車を降りて、地図で予習しておいた道順を思い出しながら慎重に進んだ。
「そうか、ここは関東では有名な海岸なんだな。」
通りに付いている名称の標識を見て初めて、そう認識した。私にとってはただ、「海が見たい」という欲求を、故郷の海に代わって満たしてくれる、代替品のようにしか考えていなかったのだ。そんなふうに言ってしまうと、ここの土地に対して随分、失礼しちゃう感じになってしまうけれど。
海へ出る道の途中には、サーフボードの店とか、喫茶店とか、そういうちょっとした店が点在していた。おそらくシーズンになれば、たくさんの人で賑わっているに違いなかったが、なんでもない2月の平日の午前中ともなれば、地元の人が散歩をしているぐらいで、関東有数のリゾート地らしき混雑とは無縁だった。
そんなふうにして、観光地にある住宅街特有の息苦しさを感じつつ、通りを抜け、地下道経由で大きな道路を一つ渡ると、果たしてそこには海があった。
海、それは海に、間違いなかった。
目の前に広がる浜辺と水平線、それを見た一瞬で、私は癒やされた。
ああ、海だ。
田舎の海とはちょっと違うけど、紛れもなくこれは、海なんだ。
広大な海、汚染され続けている海、だけど、なんにも気にしていないみたいに、田舎の海とおんなじように、遥かに遠く、空と接して、そのずっと先に何があり、深い奥底がどうなっているのかは全然、見せてくれない、海。
そうやって、人の心も、時には命までも、奪いとってしまう海。
海岸は砂浜だった。
左手の方で、何か工事をしていた。距離があるのでさほど気にならなかったが。
右手の遠くの方に、椅子に座って静かに海を眺めている二人連れがいた。
正面の遠く、波打ち際では、二、三人の若者らしいグループが楽しげに戯れている。偶然の余暇を、友人と共に愉しんでいるのかもしれなかった。
それ以外には、全く誰もおらず、ほとんど貸し切りのように感じることができた。
私は十分に満足だった。
この偶然のプライベート・ビーチを台無しにしてしまわないように、慎重に、海へと近づき、波打ち際を歩いてみた。波は穏やかだった。少しだけ、海に触れてみた。水は思ったより冷たくなかった。
そうして暫し、波の行き来を眺めて、また砂浜のほうへ引き返した。
海から離れた所に腰をおろして、長い水平線を眺めた。
もう昼近くなり、日は高くなっていた。ケータイで何枚か、海の写真をとった。
徐々に散歩の人が増え始め、日差しも強くなってきた。
私は、ほうっと立ち上がり、軽く砂を払うと、帰路についた。
この日に撮った海の写真は、少しばかりのアートワークをして、私達のバンドの4枚目のアルバムのジャケットになった。